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2007年12月21日 (金)

アウトワードバウンド③ 完結

このプログラムの中で起こった出来事やエピソード、また、りお太郎がそこで考えたことを語りだしたらきりがないので、すぐにクライマックスのところに触れたい。

チームの編成が1回変わり、1週間ほど慣れないメンツと一緒に激しい登山をやった後、また最初のチームに戻った。りお太郎にとって、最初から3週間以上も連れ添った仲間たちのもとは、すこぶる居心地が良く、お互いかなり意識しながら、多少無理して活動にのぞんでいた状態から、安心感にあふれ、かつ自然に振舞うことができる場所に戻れたことが嬉しかった。しかし、アウトワードバウンドのプログラムはいよいよ佳境に入り、ラストには難易度の高いピークの登攀があり、いよいよクライマックスを迎える。

サン・ワン山脈の最深部には、名前さえ無いような山々がある。しかし地形図上には、ちゃんと標高が載っているし、少ないが登山者もいるので、これらの山は分かりやすいように“数字”で呼ばれている。ピーク1(ワン)とかピーク・ツー、ピーク・スリーという感じで、アクセスが悪いこともあってスゴイ秘境なのだ。その無名峰のひとつにチームは挑んだ。今まで登ってきた山よりも、ルートファインディングがシビアで、しかも岩場、雪渓と危険箇所も多い。登頂できる確立は少ないように思えた。しかし、このころになると、仲間と一緒であることに充実感をもっていたし、登頂することより、少しでもチームに貢献することの方をのぞんでいたと思う。

さて、地図とにらめっこしながら全員でルートを選定したはずだったが、困難は出発してからすぐに始まった。比較的斜度が緩やかな場所から登ると、予想以上に雪が深かったのである。冬山のようなラッセルになった。しかし、チームはあ・うんの呼吸のもとで、効率よく先頭を交代しながらすすんだ。わざわざ確認をしなくても、チーム全員が楽に歩けるペースが分かっていた。疲れはじめた仲間に声をかけるまでもなく、少しでも余裕がありそうなメンバーが先頭にまわり、深雪の中にルートをつくった。チームはとても良くまとまっていて、すべての行動が自然のながれの中で行われた。誰も気をつかっていない。誰一人と苦しかったり無理をしていたりはしない。それは、全員がチーム全体の状況を認識しながら、個人の力量ではなく、チームの力量のもとで判断し、行動していたからであろう。口に出さなくても、だれが何を考えていて、何を求めているのかさえ分かった。喉が渇いたなぁと思っていると、うしろの仲間が何も言わずに水筒をザックから取り出し、差し伸べてくれるのだった。

もう、頂上はそれほど遠くない。みんが期待感を持ちはじめた頃、最後の難関が待っていた。垂直に近い岩壁が現れ、クライミングのピッチになった。当然ロープを準備して、だれかがリードしなくてはならない。りお太郎は決して自信があったわけではなかったが、俺がやろう、と言い出した。自分はまだまだ元気だし、苦手のクライミングだってへっちゃらだぜ、ということを最後にアピールしたかったのだろうが、ほとんど虚勢に近かった。仲間たちは、そんなりお太郎をよく理解していたし、それを不快に感じても良いはずなのに、ちゃんと受け止めてくれたのだった。

りお、おまえはさっきのラッセルで一番頑張ってくれたじゃないか。ここは、他の仲間に譲ってくれよ。おまえには安全を確認してもらいながら、ちゃんとビレイをやってもらいたいんだ。

登山の中で、つねに優先すべきことは安全確保である。自信過剰やわがまま、プライドや思い上がりなど、すべてまったく必要としないものだ。優しい仲間の言葉によって、りお太郎は素直に自分の出過ぎた言動を引っ込めることができた。この場面では、事故のリスクを考えてクライミングの得意な仲間がリードした方が良いということになった。そして、りお太郎はしんがりをつとめ、一番最後に頂上にむかうことになる。それは、せっかちで自分勝手なりお太郎には、受け入れられないような役割のはずだったが、長い間ひとりではなくて、チームで行動しているうちに、そんなことが当たり前になり、しかもすごくやりがいがあることに思えてきたのだった。いつのまにか、自分の思い通りにならないことで感じていたストレスは、仲間と行動を共にする喜びに変わっていた。

最後のクライミング・セクションはかなり厳しかった。ザックが重いのに加え、みんなの疲労もピークに達していた。しかも、岩場には足場が少なかったから、登山靴で登るのは微妙で、ビレイヤーにも緊張感がある。もう、完全に仲間に頼らざるをえない。100%仲間を信頼しなくてはならない。そういった中、チームは安全に登攀を行うことができていた。そして、りお太郎以外のメンバーは岩場をぬけ、頂上に到達したようだった。もう、りお太郎が立っていた場所に、だれもいなくなった。みんなザックを担いで登ったので、ギアさえひとつも残っていない。ひとりぼっちになってしまい心細くなった。ただ、りお太郎のハーネスから頂上にむかって、まっすぐロープがのびていて、それが仲間のひとりにつながっていることが、心強かった。

登れ、と仲間から声がかかった。無我夢中で岩場にとりつく。苦戦しながらも、少しずつ仲間に近づいていくと、涙が溢れてきた。もう頂上まではあとわずかだ。けっこうしんどかったけど、がんばったなぁ。もう少し行けば仲間たちが待っている。早く登りたい。もう飛んでいきたいくらいだ。でもクライミングは難しいな。あせるな、慎重に、慎重に、ここで怪我はできんぞ。ビレイヤーが確実に確保してくれていることを実感していた。でも、感謝の気持ちで胸がいっぱいになったのは、ビレイをしている仲間にだけでなく、チーム全員に対してだった。みんなと一緒に山に登れてすっごく楽しかった。ホント最高の気分だ。

登りきったら頂上は目の前だった。拍子抜けするくらいで、クライミングが終わったら、すぐそこは頂上なのである。やった~。着いたぞ!仲間たちはもちろん全員頂上にいて、最後のひとりである自分が見えた途端、歓声が上がった。リオ!グッドジョッブ!!なんと驚いたことに、仲間たちはザックをおろさないで、ずっと待っていてくれたのである。頂上なのだから、くつろぎながら飯でも食べていておかしくないのに、メンバーが全員そろうまで、だれひとり座らないで、今か今かと待ち構えていてくれたのだ。そこでりお太郎は、こらえきれずに号泣してしまった。運よくサングラスはかけていたが、こみ上げてくるものを抑えることはできなかった。涙でボヤけた中、みんなが寄ってきてハグしてくれた。

お互い何日間も風呂に入っていない臭い体どうしで抱き合いながら、仲間の全員を称えあって達成感をかみしめたのだった。これは完璧なフィナーレで、この上ない幸せを登山を通して感じることができた瞬間だった。頂上を踏んだという事実より、何倍も価値があるものをはっきりと体感できていたし、この経験の中で自身の成長も見出していた。

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コメント

すごくちゃんとやってるんだなとちょっとびっくりしました。別にメールでもよかったのですが来たよ~ってことで。

投稿: yosuko | 2008年1月13日 (日) 14時25分

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